離散フーリエ変換は気象計算から金融工学まで広い分野で用いられている.そして, この変換を高速にしたものとして高速フーリエ変換(FFT)が知られている.FFTはデー タ点が等間隔でしか使用できないという制約があるが,近年ではこの分野においてデー タ点が不等間隔な離散フーリエ変換の必要性があり,それを可能とするアルゴリズム が提案された.
このフーリエ変換アルゴリズムでは順フーリエ変換(実空間から周波数空間への変換)
の場合,連立一次方程式を解く必要があり,その計算が変換の大部分を占めている.
そのため,この方程式を解く際の計算時間と計算精度の両側面から,順フーリエ変換
の性能を向上する必要がある.
そこで,従来では方程式の係数行列をエルミト正定値Toeplitz行列に変形することで,
エルミト性と正定値性を生かした効率的な解法を用いることを可能としていた. 近
年では,このエルミト正定値Toeplitz行列を持つ方程式に対して精度面に重点をおい
た解法も提案されている.
一方で,本研究では,もとの係数行列がある方法によってVandermonde行列に変形
できる点に注目した.Vandermonde行列には再帰的な構造を利用した直接解法が提案
されており,エルミト正定値Toeplitz行列の場合の同種の解法と比べて計算精度の面
で優れていると理論評価した.
発表では,Vandermonde行列に向けた解法の適用による,安定的な順フーリエ変換の
ための手法の提案と計算精度に関する評価を示す.