科学技術計算に現れる多くの問題は,最終的に大規模連立一次方程式を解くことに帰 着される. 大規模連立一次方程式に対する有効な解法として,反復法があり,定常反復法とKryl ov部分空間法の2種が存在する.反復法では,より速く解を得るため,前処理(係数 行列を解きやすい行列へ変換すること)を併用することが一般的である.定常反復法 とKrylov部分空間法は,同じ前処理が併用されることがあるしかし,定常反復法に対 する前処理とKrylov部分空間法に対する前処理ではその目的が違うため,両手法に対 する同一の前処理が,共に有効であるとは限らない.
前処理には様々な手法があるが,本研究では近年提案された不完全WZ分解を用いた前 処理を扱う. 従来,不完全WZ分解を用いた前処理は,定常反復法と併用され,その有効性が数値的 に確認されている.しかし,定常反復法はその適用範囲が限られている. 一方,Krylov部分空間法は,定常反復法に比べ,広範な問題に適用可能である.そこ で本研究では,不完全WZ分解を用いた前処理をKrylov部分空間法と併用し,Krylov部 分空間法に対する前処理としても有効であるかを検証する.