近年,信号処理や,経済データ解析などの分野ではロバストなデータ解析手法の開発が望まれている.独立成分分析もそのようなデータ解析手法の1つで,混合された電気・音声信号の分離や,経済時系列や気象データなどの分析などにおいて用いられている.
N 次元の観測データが x(t) = A s(t) の形で,N×N 行列 A による N 次元の原データ s(t) の線型変換として表されるときに,独立成分分析は,原データ間の統計的独立性を仮定し,x(t)
の情報から,A-1 や s(t) の推定を行うものである.独立成分分析には様々な推定手法が存在し,その中の1つに観測データの分散と共分散を並べた行列の同時対角化に基づく手法がある.この手法は,幅広い問題に適用可能である一方,原データ間に生じうる相関により推定精度が低下する.誤差増大の欠点を改善した従来法として,田中らによって提案された手法がある.しかしながら,田中らの手法では必ずしも推定誤差は減少せず,原データ間の相関が大きい場合には誤差が殆ど減少しない.そこで,本研究では,田中らの手法を改良した,相関が大きい場合にも誤差の少ない推定を可能とする,ロバストな手法の開発を目標としている.
本発表では,田中らの手法を改良して推定誤差の大部分を占める項が最小化される手法を提案し,その性能について報告する.数値実験により,原データ間の相関が増大するにつれて田中らの手法は性能が低下したが,提案法ではより大きな相関でも誤差が減少することが確認された.