正定値対称な大規模疎行列を係数にもつ連立一次方程式を,反復法であるCG法を用い て解くことを考える. CG法では,計算効率の向上のために,係数行列を解きやすい行列へ変換するという前処理を併用することが一般的である. 前処理の中でも,正定値対称行列向けとして,FSAI前処理が注目されている. FSAI前処理では,前処理行列に非零構造をあらかじめ与えて構築を行う. 非零構造の与え方はFSAI前処理の性能に影響するため,より計算の効率が向上するよ うな非零構造を決定する必要がある. ところが,現状では有効な非零構造の与え方が確立されているとはいえない.
一方で,離散wavelet変換を係数行列へ適用すると,その逆行列がある特殊な構造を 持つようになる. この構造は係数行列の逆行列の主要な成分を抜き出していることが知られている. そこで本研究では,この特殊な構造をFSAI前処理の非零構造の決定へ利用することで, より効率的なFSAI前処理の構築を試みる. そして, 数値実験でその有効性を検証する.