流体が物体表面を流れるときに壁近傍に生じる薄い層状の乱流領域を乱流境界層と呼ぶ. 乱流境界層は航空機や自動車の周りの流れなど様々な場面で見られ,その理解,予測および制御は工学的に重要である. 乱流境界層の普遍的性質を理解するためには直接数値シミュレーション(DNS)が有効であるが, 乱流は一般に自由度が非常に大きく莫大な計算資源を必要とする. そのため,大規模DNSを行うためには計算の効率化が要求される.
乱流境界層は主流方向に空間的に発達するため,平行二平板間乱流のDNSのように主流方向に周期性を仮定することができない. そのため,流入・流出境界において何らかの配慮が必要となるが,境界が流れ場に与える影響は自明ではなく,その取り扱い方に関しては現在も多くの議論がなされている.
本研究ではこれまで,流入・流出境界としてSpalart et al.(1993)によって提案されたfringe methodを用いた乱流境界層のDNSを行い, その結果がPurtell et al.(1981)の実験等とよく一致することを確認した. 今後,より大規模な乱流境界層のDNSを効率的に実行するための方法を開発することを目的として, ラージエディシミュレーション(LES)によって得られた場を初期場とする方法を提案し,その検証を行う.