タンパク質は構造が変化することで、その機能や性質が大きく変化することが知られている。タンパク質の結合部位にリガンドが結合することで、局所的に立体構造が変化し、その影響が立体構造全体に伝播することでタンパク質全体の立体構造が変化する現象をアロステリック転移という。局所構造変化の影響が分子内を伝播するメカニズムの解明は、タンパク質機能を理解し制御する上で重要な課題である。そこで、我々は粗視化モデルを用いた計算機シミュレーションによって、その解明を目指す。
近年、アロステリック転移が二状態的であることを前提として仮定したさまざまな粗視化モデルが提案され、それらは二状態的な立体構造変化を表現できてはいるものの、局所構造変化が一瞬のうちに構造全体に伝播する、局所的相互作用のポテンシャルにバリアができる、といった不自然な点がある。
本研究で用いたカメレオンGoモデルは、残基や残基対の周囲にある残基の位置関係が二つの構造のうちのどちらにより近いかを数値化し、周囲の環境がどちらの構造により近いかに応じて、相互作用エネルギーを最安定化する残基間距離や角度が連続的に切り替わるように構築されている。このモデルを用いて二状態的な転移が得られることは自明ではないが、アデニル酸キナーゼについて行った分子動力学計算の結果、二状態的なアロステリック転移が観察された。また、閉じた構造の方がより安定であるという実験結果が再現できた。