行列を直交行列Qと上三角行列Rの積に分解するQR分解は,最小二乗問題や特異値分解などの様々な計算中で用いられる重要な行列計算の一種である.このQR分解を高速に計算する工夫として,行列を繰り返しブロックに分割し,ブロック単位で計算を行う,アルゴリズムのブロック化があるが,行列をどのように分割していくか(分割パターン)によって計算時間が変わってくるため,最適な分割パターンの予測が重要な問題となる.既にいくつかの分割パターンが提案されているが,比較的シンプルな分割パターンのみであり,複雑な分割パターンについてはあまり研究がなされていない.そこで,本研究では従来研究がなされていなかった複雑な分割パターンを含めて,最適な(計算時間が最小となる)分割パターンを予測することを目的とする.
m×nの行列に対する分割パターンの総数は約2n通りであるため,全てのパターンを比較するのは非実用的である.そこで,本研究では動的計画法を用いることで,約n2通りのパターンの中から最適な分割パターンを近似的に予測する方法を提案する.また,数値実験として,提案法により予測した最適な分割と従来用いられている再帰分割でそれぞれQR分解を行い,実行時間を比較したところ最大で約1.2倍の高速化が確認できた.動的計画法による分割パターンの最適化方法や数値実験の詳細についてはポスターで報告する.
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