標準的な画像表示装置では,赤,緑,青のそれぞれの明暗を高々256階調まで しか表現できない.このため,コントラストの大きな画像を量子化する際に, ハイライト近傍が正しく表示されるように輝度を線形圧縮すると暗い部分がつ ぶれてしまう.一方で,暗い部分の輝度差が表示されるように全体の輝度値を 上げると,ハイライト及びその周辺の輝度が表示能力の上限を越えてしまうの で,白くとんでしまう.このように単純な線形量子化では,本来はあるはずの 画像情報が見えにくくなったり,失われたりする.一般的に用いられているγ 補正は,人間の視覚系が低輝度域で低感度である性質を暗い部分の輝度を非線 形拡大することで補う手法である.ただし,その分,明るい領域の輝度差が圧 縮されるので,画像情報が失われる.また,画像の明るい部分と暗い部分の輝 度差が減少するため,コントラストが低下する.そこで,人間の視覚特性等を 模倣した輝度補正方法を応用して画像を強調することで,元の画像情報を保っ たまま輝度を256階調に圧縮する.
気相から液相への相転移は、密度の揺らぎによって臨界サイズ以上のクラス ターができ(核生成過程)、そのクラスターが大きくなる(核成長過程)こと によって起こる。従って、核生成過程を理解することは、気液相転移を知る上 で、最も重要である。 我々はこれまで、単一成分からなる気体の核生成のメカニズムを、分子動力 学シミュレーションによって解明してきた。この経験を活かし、より現実に近 い2成分系での気相核生成現象のシミュレーションを行なっている。 今回は、希ガス原子の原子間力を表すポテンシャルである、Lennard-Jones ポテンシャルを用い、そのポテンシャルの深さを変えることによって、2成分 気体を実現した。このモデルで、核生成のシミュレーションを行ない、生成す るクラスターが、過飽和度によってどのように異なるかを調べた。
知的教授システム(ITS)とは、従来の教授支援システム(CAI)と異な り、個々の学習者に関する情報(学習者モデル)等を用いて、学習者に個別な 教授を実現するシステムである。ITSにおいて、特にLISPなどのプログ ラム言語の教授に関する研究では、学習者の解答から、学習効果を高めるよう に、適切に誤りを検出する研究が多く行なわれている。プログラム言語に関す る十分な知識を持たない学習者は、プログラムの記述において様々な誤りを犯 すことが考えられる。しかし、従来コンパイラなどで用いられるエラー検出機 能では、学習者の情報を保持せず、また誤りに対する指導を想定していないた め、学習者の様々な誤りを適切に分別することができない。一方ITSでは、 学習者に対する関数やアルゴリズムに関する知識教授や問題演習などの過程で 学習者に関する情報を蓄えることができるため、これらの情報を利用してより 適切な誤りの分別が可能である。我々はLISP教授システムにおいて、学習 者の学習履歴や誤りの履歴を用いて学習者の誤る可能性の高い関数を推測し、 学習者のスペルミスを除去して誤りを間違った知識から生じるものに絞り込み、 さらに誤りパターンを用いて、これらの誤りを分別する手法を提案する。
F1など高速で走行する競技車両の場合、その車体の空力特性がレースの勝敗に大 きく影響する。そのために空力特性を見極めるための正確な流れのシミュレーション は重要な問題である。 このような場合には、流体運動を支配する方程式は圧縮性ナビエ・ストークス方程 式になる。この方程式を解くときの有名な方法として差分法がある。解析空間を離散 化して、偏微分方程式を代数方程式にして数値計算する。格子形成とはこの解析空間 を離散化する事を示す。物体形状や流れ場が長方形のような単純な形状ならば単純な 直交格子で離散化できる。しかし実際の場合には自動車や飛行機の翼のように複雑な 形状をしている方が多い。このような場合には境界に沿った境界適合格子を用いる。 今回は様々ある格子形成法のうちで、比較的簡単で滑らかな格子を得ることができ るラプラス方程式の解を用いた方法で格子を作る。今後、他の方法で作った格子と比 較する予定です。 このようにして、必要とする格子を作って、それを写像して解くことができれば、 単一の計算プログラムで様々な問題に適用できることが期待できる。
平均流が、U=(Sx3,0,0)の形で、与えられ、鉛直方向(x3方向)に平均密度勾配を持つ 安定成層下の剪断乱流について解析を行なった結果について報告する。解析は、 慣性項を省省略した線形近似 RDT(Rapid Distortion theory)を用いた。 その解析によって得られた様々な剪断の強さSと成層の強さN(ブラントーバイサラ 振動数)におけるx3方向とx1方向の乱流強度比及びx3方向と密度の規格化された相関 の時間発展で比較する。ここで初期(t=0)のエネルギースペクトルは、等方的である とした。S=1,2,4,5,10,20,Nの2乗=0.4,1,2.5,4,10,25,40,100の値を取り乱流強度比 を比較した。また相関についても同様のことをおこなった。乱流強度比、相関の値を リチャードソン数Ri(Nの2乗/Sの2乗)の関数としてプロットしたグラフを講演時に 示す。 またKOMORI et.al.にある乱流強度比の実験データと彼等によるスペクトル解析の 結果と比較する。
きにできる分子一層分の膜のことを言います。ラングミュア膜は分子の面密度 にによっていろいろな相を取ることが知られています。本研究では分子のヘッ ドの位置を固定した系と自由に動ける系の2つの系についてシミュレーション を行ないました。分子のモデルはシリンダー形状の棒として、分子間相互作用 は剛体斥力のみを考えました。シミュレーションの方法はモンテカルロシミュ レーションを用いました。 分子の配向がどれだけよく揃っているかを見るパラメータとしてオーダーパ ラメータを求めます。分子がすべて揃っている場合はオーダーパラメータは1 となり、分子がランダムに配向している場合は0になります。 結果は分子の長さが長いほど、また、分子の面密度が大きいほど分子が揃い やすいことが分かりました。分子のヘッドの位置を固定するか、自由にするか によるオーダーパラメータの違いは見られませんでした。
本研究では計算機においてよりリアリティを増した手術シミュレーションを可 能とするための一つの手法として、弾性臓器の新しい変形手法について述べる。 従来の研究において、柔らかい臓器を表現する為に臓器形状を質点ばねモデル で表現し、ばねによる弾性力を用いて形状変形を行なう手法が一般的に用いら れてきた。しかし、この手法では解への収束の遅さや、質点の急激な変化に伴 う質点の発散現象が見られた。そこで本研究ではこれらの問題点を解決する新 しい変形手法を考案し、比較検討を行なう。本手法では臓器形状を三角形パッ チで近似し、その各頂点を節点、各頂点間をばねとみなしモデル化する。各節 点は隣接する各節点との間に張られたばねによる弾性力を受ける。各節点の位 置は、それに隣接するばねにより及ぼされる合力の方向に、その大きさに比例 した量だけ動かす。この操作を各節点に対して行ない、各節点に加わる外力の 総和が、ある閾値以下になるまで反復を繰り返す。従来法と本手法を人工図形 および実際のCT像より抽出された臓器に対して適用し、新しいモデルの安定性 を従来のモデルと比較した結果、反復回数の減少および収束の安定性が向上す ることが知られた。
本研究では街路の凹凸や道の傾き等の情報を、ビデオカメラで撮影された画像を利用し て測定する手法について述べる。ここでは可能な限り簡単な装置を用いて測定することを 目標とする。既存の街路を測定するシステムは大局的なデータを取るものであり、歩道等 の細かい凹凸や傾斜のデータを測定するのには不向きである。そこで、街路の細かい凹凸 の測定手法として(1)左右二つの画像を用いて画像そのものを直接対応付けして画素ご との奥行き情報を得るステレオマッチングによる手法、(2)一般的な照明器具で地面を 垂直に照らして影をつくり明暗のエッジで輪郭を測定する光切断法に類するもの、(3) カメラに対して垂直に立てて並べた複数の棒の画像を利用して測定する手法の3つについ て比較検討を行う。また、街路の傾きを測定する手法として(1)振り子の画像を利用す る手法、(2)水を張った容器を利用した手法、を取り上げる。それぞれの手法について 比較検討を行った結果、光切断を用いた手法は解像度の面で他の手法よりも優れており、 機動性や簡便性においては棒を利用した手法が優れている、ステレオマッチングを利用し た手法は凹凸情報がうまく得られず不適切である等の知見が得られた。
ファジー論理プログラミングは、エキスパートのもつ曖昧な知識の表現、 及びそれを用いた推論の実現に有効である。 しかし一般に、プログラムを人手で作成するのは困難であり、現在その自動 化が求められている。 そこで本研究では、帰納論理プログラミングを用いてファジィ論理プログラム を学習する手法を提案する。 帰納論理プログラミングは二値論理をベースとした体系であり、 それを多値化することにより、ファジィ論理プログラムの学習にも 適用できると考えられる。 本発表では、まずファジィ論理プログラムの学習手法について説明し、 それを用いた動作例を示す。 また、本手法の計算機上への実装について報告し、その有用性を評価する。
本発表では、固体、液体、気体に次ぐ第4の状態と呼ばれるプラズマ(特に弱 電離プラズマ:電離が不完全で温度の低いプラズマ)に関する数値シミュレー ションについて発表する。 ここで取り上げる弱電離プラズマは、コンピュータに必要不可欠な半導体の製 造過程の一つであるプラズマプロセスにおいて使われている。より高速なCPU、 より大容量のRAMを作るためには、半導体の微細構造をさらに細かいものにしな ければならない。そのためには、プラズマプロセスにおいて使われるプラズマ の性質や振る舞いを詳しく知る必要がある。 プラズマは外界との間にシース領域という領域を自分で作る性質がある。この シース領域は外界との間に自動的に作られるため、直接実験によってプラズマ の振る舞いを観測しようとしてもシース領域が邪魔になってしまうという困難 がある。そのため、計算機によるシミュレーションによる研究が多く行われて いる。 本発表では、この弱電離プラズマの簡単な紹介と現在までの計算の結果を報告 する。
オペレーティングシステムや通信プロトコルといった、複数の実行 主体が互いに通信し合いながら並行的に動作する並行システムにおい て、動作の正しさの検証は重要である。 並行システムの検証方法として様相論理によるモデルチェッキング がある。これは、並行システムの構造Mと様相論理の論理式pが与えら れたとき、Mはpのモデルになっているか、つまりMがpという性質を満 たすか、ということを判定する。 一般的にシステムの並行実行は、個々のプロセスの基本的動作が非 決定的に入り交じって行われるという形でモデル化される。そして、 並行システムは状態遷移グラフとして表される。 ここで、並行システムの状態遷移グラフの大きさが、非決定性によ りプロセスの数に関し指数関数的に増加するという深刻な問題がある。 これは、検証にかかる時間が非常に大きくなり、現実的規模のシステ ムの検証が困難であることを意味している。 そこで、個々のプロセスの検証結果から全体のシステムの検証を行 うことができれば、状態数の指数的増加を防ぐことができ、検証がよ り容易なものとなる。 本研究では、並行システムにおけるモデルチェッキングを個々のプ ロセスに分割して考え、検証を効率化することを目的とする。
一様流中に迎角をつけて翼をおいた場合、負圧側の翼面境界層において強い 逆圧力勾配によって剥離する。この剥離した境界層(剥離剪断層)は撹乱に対 して極めて不安定であり、特に層流剥離する場合は、再付着の位置や剥離渦の 規模は外乱の影響を強く受ける。音波により剥離剪断層の不安定性を刺激し、 剥離剪断層の剥離構造を制御することが可能で、それにより、大迎角まで失速 を抑制する事が出来る事が報告されている。 本研究においては、この現象について数値解析を行い、実験結果との比較を 行う。 解析にはLU-ADI法を用いた5重対角行列スキーム(Block pentadiagonal ma trixscheme)を採用して、低レイノルズ数におけるNACA0012翼型の周 りで3次元圧縮性ナヴィエ・ストークス方程式を解き、それに音響効果を加え ることで、数値解析を行い、それを可視化することで実験との比較を行う。 これにより、翼周りの流れが音響効果により流れ構造がどのような応答を示 すかという点に注目する。
一般的に差分法では解く事が難しいといわれる複雑な領域における偏微分方 程式をモンテカルロ法では比較的容易に解く事ができる。 今回の研究では、モンテカルロ法を熱拡散方程式に適用して数値実験を行っ た。一般的にモンテカルロ法の誤差の収束は非常に遅いのだが、モンテカルロ 法で使う乱数を工夫する事によって収束を速くする事ができる。例えばLDS (LowーDiscrepancy Sequence)と呼ばれる非常にDi screpancyが小さい数列を、乱数とみなして使用すると誤差の収束が よくなる事が知られている。 今回の実験では、もっとも基本的な一次元熱拡散方程式において、従来から よく使われている合同乗算乱数を使った場合とLDSを使った場合を実験し、 誤差の収束がどのように改善されたのか調べてみた。
近年、ノートPCや携帯端末が広く普及した結果、外出先へ手軽に持ち運び、利用 できるようになった。例えば、外出先で複数の人が集まったときに、端末間でスケ ジュールの調整や資料の配付などを行うことも可能となった。 端末間の通信には、ケーブルの接続や通信の設定などの手間がかからない通信 手段が望まれる。そのためには、無線を用いて自律的に通信を行う手法が適して いると考えている。しかし、現在の端末では特定機種間の通信に制限されていた り、1対1通信のみに限られていたりするため、端末間通信は十分活用されていな い。そこで本研究では、複数の端末が出会ったその場で、多対多通信を行うネット ワークを構築し、データの交換を行うアプリケーションの実現を目指している。 今回の発表では、赤外線デバイス内蔵のノートパソコンを用いて、1対1通信を用い てURLを交換するアプリケーションのデモを行う。また、これを多対多通信に拡張す ると、URLの授受で画面表示の切り替えを行うプレゼンテーションのアプリケーショ ンが実現できる。
近年、VLSIなどディジタル回路は非常に多くの回路素子から構成されており、 その回路の故障検出は非常に困難である。そのため、ディジタル回路に対し、 回路の故障検出を行いやすい設計にする必要がある。回路の故障検出を行いや すくする設計のことをテスト容易設計といい、大規模な集積化がなされるにつ れテスト容易設計の技術は非常に重要になる。また、回路の集積度が高くなる ほど回路の設計が複雑になるため、設計方法の簡約化のため回路の自動合成に よる設計の自動化が必要となる。本研究では順序回路から、テスト容易化され た組合せ回路を自動合成する方法を研究する。順序回路は、時間軸方向に展開 することにより組合せ回路化でき、その結果、一次元一方向繰り返し組合せ回 路へと変換できる。 一次元一方向繰り返し回路は、順次桁上げ加算器の様に、 同一の機能をもつ基本回路(セル)を入力ビット長と同数一次元に繰り返し並べ た上を信号が一方向に伝搬する構造の回路である。順序回路の状態遷移関数に 応じて、テスト容易化された一次元一方向繰り返し回路を合成する方法を研究 する。
Navier-Stokes方程式に従う一様等方性乱流においてEuler的速度場とLagrange的 速度場の6次までの時間微分を求めた。 速度場の確率分布はGaussianに近いことが知られている。また、速度場の空間微分 は場の間欠性などと関係して多くの研究がなされている。しかしながら、時間微分に ついての研究は殆どない。したっがって、速度場の時間微分がどのような確率分布を しているかを調べた。 乱流の研究において二時刻速度相関は重要である。例えばLagrange的二時刻速度 相関は乱流拡散と密接な関係があり、Euler的二時刻速度相関は乱流の統計理論に おいて重要である。そこで速度場の時間微分を使って、パデ近似により二時刻速度 相関を近似する。パデ筑近似によって得られる結果は直接数値シミュレーション(DNS) で得られた結果とよく一致した。パデ近似により計算時間はDNSの約4分の1に短 縮できた。
実在感の高い画像を生成するには物体の質感を正しく表現することが不可欠で ある。最も一般的な質感表現方法は、物体表面の反射特性をテクスチャとして 定義し、形状モデルの表面にマッピングする手法で、幾何形状が単純でももっ ともらしく見えるため、バーチャルリアリティや3Dゲームなどのリアルタイ ムシステムでは必須の機能となっている。 このテクスチャの生成手法は、写真を取り込む方法とコンピュータで生成す る方法の2つに大別できる。前者は実物を用いるため実在感では優れているが、 予め条件が決められないときには多数の写真を用意しておく必要がある。また、 光源の変化に対応することが難しい。他方、物体表面の構造や反射特性をモデ ル化する方法では、様々な質感を同じモデルで表現できるが、汚れや傷といっ た素材の物理的な性質とは無関係の質感は表現できない。そこで本研究では、 環境や使用頻度、時間経過によって生成される汚れや傷などに着目し、特に建 物内部(室内、廊下、階段)における、よりリアリティの高い質感表現モデル を提案する。