荷電ラテックス粒子を含むコロイド分散系は工業的に幅広く用いられている。 ペンキやインクは荷電ラテックス粒子を含む一般的なコロイド分散系である。 ペンキの粘度が低いとき塗ったあと重力によってペンキが垂れやすい。逆に粘 度が高いと非常に塗りにくい。塗り終えたあと早く乾くペンキをつくるには、 揮発性溶媒を減らす、つまり濃度を濃くすれば良い。しかし濃度が上昇するに つれて粘度も上昇し、ペンキは塗りにくいものになる。 このコロイド分散系の性質は、ラテックス粒子の粒径や表面電荷密度、グラフ トされた高分子の密度等、多数の因子によって決まっている。このため各々の 性質を決定づけている因子を特定することは難しく、必要な性質のコロイド分 散系を得るためには多くの実験が必要である。計算機シミュレーションによっ てコロイド分散系の物性予測ができるなら、工業上の意味は大きい。本研究で はこのような観点から荷電ラテックス系の非ニュートン粘性のシミュレーショ ンを行ない、実験と比較した。
建物が周囲の景観にどのような影響を与えるのかをシミュレーションするには, 周辺の建物を含めて形状を計算機に入力する必要がある.3D-CADやCGモデラによ る形状入力には多くの手間がかかるため,一般的には,単純な幾何形状で近似さ れた建物に写実的なテクスチャ(または実画像)をマッピングする手法が用いられ ている.しかし,テラス,ベランダなどの出っ張りや,玄関,駐車場などの開口 部は正しく表現されないので,遠方にしか配置できない. この問題を解決するため,写真に直方体,四角錐などの形状を当てはめること で凹凸のある建物形状を定義する手法が提案され,システムも市販されている. この方法は写真が1枚有れば対話的に立体を復元できる利点があるが,写真とパー スが一致するように立体を配置することは神経を使う仕事である.また,パース を間違えると,復元される形状が大きく変形してしまう. そこで,本研究では,ステレオビジョンを用いて精度良く立体形状を入力する ことを考える.この場合,対応誤りなどで安定的に形状復元できなくなる恐れが あるため,人間の優れたパターン処理能力を活用した対話処理で誤りを補うこと により,効率的かつ安定的な建物形状の復元を目指す.
氷蓄熱とは冷熱を氷の状態で貯蔵し、その融解熱を建物などの冷房用熱源として利 用するもので、一種の潜熱蓄熱である。通常は夜間や休日の余剰電力で冷凍機を駆動 して製氷・貯蔵し、昼間にそれを放冷熱して建物・機器などの冷房・冷却を行う。熱 エネルギー貯蔵の中で氷蓄熱は、蓄熱密度を高められるということが認識されてい る。 蓄熱槽内における氷の製氷方式は多種多様存在するが、大まかに分類するとスタ ティック型とダイナミック型がある。スタティック型氷蓄熱には、冷媒であるフロン またはブラインで冷却された管外面に氷を作るアイスオンコイル型と管内面に氷を作 るアイスインコイル型などがある。ダイナミック型氷蓄熱もいくつか種類があるが、 製氷部から氷・水混合体が供給されるという点でほぼ同じである。 今取り組んでいる研究は、スタティック型アイスオンコイル型の氷蓄熱における、 氷の成長・融解の境界面の変化とその周りの水の温度分布の数値シミュレーションで ある。こういった固液の境界の移動を求めるStefan問題をLevel Set法を用いて数値 的に解くことを試みる。まずは、直線円管の周りで凝固・融解する氷を想定して、そ の円管軸方向断面の2次元での計算を行う。 (35文字 X 15行 = 500字程度)
高分子系の平衡状態での構造を求めるのに有効な手段として、モンテカルロ 法(MC法)が挙げられる。これは、ある適当な初期状態から高分子中のモノ マーを一定のルールに従い確率的に動かしてゆくことにより、最終的に安定な 平衡状態を得る方法である。MC法の良さは、まさに動いている分子を見るこ とができる点である。反面、その情報量の多さ、時間刻みの小ささ故、取り扱 える空間サイズや時間スケールには限界がある。そのようなMC法での取り扱 いが困難な系の平衡状態を計算する手法のひとつに「自己無撞着場理論」(S CF理論)がある。この理論を用いると系の平衡状態における分子の分布を数 値計算により容易に求めることができる反面、分子の最終的な形態を観察する ことはできない。なぜなら、数値計算により得られるのは空間内の各点におけ る濃度場でしかなく、実際に動いている分子の姿はそこには存在していないた めである。 今回は、グラフトポリマー(一端を固体表面上に固定されたポリマー)の系 を対象に、従来のMC法にSCF理論を応用して平衡状態を非常に迅速に得る ことのできる新しいシミュレーション方法について報告する。
私達人間は、基本的機能として聞くという機能を持っている。この機能のおか げで私達は日常生活の中で様々な雑音の中から意味のある音を抽出することが できる。音源が何であるかを識別することは、聴覚によるシーンの解析の基本 であり、次に何をするか決定する上で大変重要である。しかし、疾病あるいは 事故によりこの聞くという機能を失い、音源の識別が行なえなくなった人々は、 音源を識別することができないので、何か音がした時すぐさま回りの状況の変 化に対処することができない。そのため、もしそれが危険を知らせる音の場合、 例えば、火災報知器や踏み切りの遮断器の音などの場合は、命に関わる問題と なってくる。このように、環境音の中から音源を識別し、それを聴覚に障害を もった人々に知らせるのは大変重要であると思われる。本研究では、環境音の 中から日常生活に必要な音を識別し、それを聴覚障害者に知らせることを研究 の目的とする。今回の発表では、識別する音源を危険を知らせる音に限定し、 音源を識別するシステムついての発表を行う。
項書換え系は、書換え規則を用いて項を書換えるという、比較的単 純な計算モデルであり、代数的仕様記述、定理証明や、さまざまな解 析・検証技法の研究に利用されている。その項書換え系の重要な性質 として、停止性と合流性がある。この合流性を満たしているというこ とは、どのような順序で書換え規則を適用しても、計算結果が一意で あることを意味している。これら2つの性質を満たしているものが完 備な項書換え系であり、直観的には、等しい項は全て同じ項に書き換 えられ、そうでないものは、必ず違う項に書き換えられるという性質 であるので、定理証明や等価性判定等には、重要な性質である。 しかし一般的な項書換え系は、これらの性質を満たしているとは限 らない。そこで用いられるものが、停止性を満たしている項書換え系 に、新しい規則を追加して次第に完備化していく方法である、Knuth- Bendixの完備化アルゴリズムである。これについては様々な研究がな されているが、本研究では、書換え規則に条件部を追加し、拡張した 項書換え系の完備化ついて、完備化可能な条件や正しさの証明や考察 を行う。
偏微分方程式を数値的に解く一つの方法であるスペクトル法について研究し ている。研究対象は球面でのスペクトル法であり,具体例として球面上の二次 元非発散渦度方程式を取り扱う. スペクトル法を用いる最大の利点は,高精度の計算結果が得られるところに ある.しかし一方で自由度の大きいモデルに対しては非線型項の計算に莫大な 時間を要するという問題点ももつ.実際,渦度方程式に単純にスペクトル法を 適用すると,自由度Nに対して,非線型項の演算回数はおよそ N^6 のオーダー となり,自由度の大きいモデルへの適用は非現実的である.特に球面モデルの 場合,その物理対象は主に地球(惑星)の大気流動の解析であるから,その自由 度は数千から数万におよび,演算回数の問題はきわめて重要である. この種の問題に対する多くの研究で,現在,非線型項の演算回数は N^3 のオ ーダーまで減少させることが可能となっている.本研究ではさらなる計算時間 の短縮を目指す.
大気循環などに代表される地球規模流動現象の解明は現在注目を集めている.この ような球面上での大規模な計算を行うのに現在の計算能力では,計算アルゴリズムの 改良が不可欠となっている.本研究はそのための計算アルゴリズムの改良が目的であ る.偏微分方程式を数値的に解く方法には,格子点法,有限要素法,スペクトル法な どがある.本研究では,球面上の流体方程式の数値解法としてスペクトル法を用い る.スペクトル法の特徴は他の方法とくらべ超高精度なことである.スペクトル法は 従属変数を直交関数系で展開し,その展開係数に対する常微分方程式系をつくり,そ れを数値的に解く方法である.本研究では球面上の流体方程式を解くため直交関数に 球面調和関数を用いる.この方法は大規模になると計算時間がかなりかかるので,計 算時間を短縮することが必要となる.このため演算回数の減少を図る方法として,非 線型項の計算アルゴリズムの改良や時間積分法の改良などがあるが,本研究では計算 時間の短縮の一番簡単な方法として,時間積分法を改良して計算時間を短縮すること を試みる.
本研究では人間にとって最も自然な入力方法である手書き入力による数式入 力システムを提案する。既存の数式エディタには、容易かつ直感的に入力でき るものはない。数式で使われる多くの記号は、例えば、積分記号は範囲を表す 上付、下付記号が付くことが多い、等号、加算、減算記号は上付、下付記号を とらない、等の特有の構造を持つ。手書き数式認識において各記号の認識が可 能ならば、記号特有の構造を基に正確に数式構造認識を行なえる。そこで本手 法では、この記号と構造の相互関係を用いて数式認識を行なう。具体的には、 ストロークが入力される度に、その入力情報から得られる4種類の特徴ベクト ルと予め用意してある辞書データとの相関係数を求め、その形状を認識する。 さらに他のストロークとの交わり具合や位置関係を、各ストロークを囲む四角 形領域を用いて調べて、各ストロークの組合せの中から最適と思われるものを 抜き出し記号を切り出す。次に切り出された記号列と、その位置の情報から数 式の構造認識を行なう。本手順を使い、マウスにより数式を手書きで入力し、 TeX のソースコードを出力するシステムを計算機上に実現した。本システムを 使用した結果、精度は形状認識部分に多く依存することがわかった。
項書換え系(TRS)は与えられた項を書き換え規則により書き換えていく計算 モデルであり、プログラムのモデルでもある。TRSプログラムの信頼性を向上 するためには、TRS解析アルゴリズムの設計と解析を行なうための枠組が必要 であり、それを目指した枠組としてメタ項書換え計算(MRC)がある。MRCの最も 特徴的な演算は、2つの書換え過程を同期させる演算であり、それによりきめ 細かな書換え過程の制御が可能である。その他、書換え規則を表現するための 演算、規則にラベルをつける演算、規則を適用する演算、規則の変数を宣言す る演算などがあり、項書換え系のみならず、項書換え系の処理アルゴリズムを 記述することができるようになっている。 本研究では、MRCの実行と解析を行なうための環境構築の一貫として、MRC実 行系を実現し、評価することを目的とする。このために、まず、MRCの操作的 意味論を忠実に実現する実行モデルを設計し、その実行モデルを計算機上に実 装する。次に、これまでに開発されているTRS処理アルゴリズム(Knuth-Bendix アルゴリズム、合流性判定、停止性判定、等価性判の定アルゴリズムなど)を MRCで実現し、MRCの表現能力、実行系の効率を評価するとともに、MRCの設計 自身の評価も与える。
ゲルとは、高分子が3次元的に架橋し、液体中で膨潤したものの事をいいます。 ゲルの合成方法には色々ありますが、最も一般的な方法は、2官能性モノマー と多官能性モノマーを共縮重合させる方法です。液状高分子の状態から反 応が進んで行きますと、ある所で高分子は液体と固体の中間状態になります。 この状態になった所がゲル化点です。ゲル化点以降さらに反応が進みますと、 固体状高分子になります。反応により液体から固体にかわるわけですから、そ の間に系の力学物性は大きく変わります。しかし、ゲル化点近傍での高分子の 研究はまだあまりされていません。よって、本研究では、ゲル化点近傍での応 力などの力学物性の振舞いについて調べようと考えております。 最近始めたばかりで、現在プログラミング中のため、セミナー当日は、シミュ レーションに用いましたモデルの理論的説明、及び、モデルの妥当性のチェッ クの結果についてお話させて頂きます。
近年のハードウェア技術の進歩により、小型で高性能な携帯端末を自由に持ち 運び、様々な情報を必要になったその場で利用することが可能になりつつある。 本研究は、出会ったその場で、いつでもどこでも誰とでも、何台とでも手軽に 通信を可能にする、携帯端末用の自律分散通信プロトコルの実現を目的とする。 このプロトコルでは、各端末は設定を必要とせず、自律的に周囲の端末を認識 し、ネットワークを構築し、動的な接続・切断を管理する。直接通信が不可能 な端末間では、中継を用いて通信を行う。 プロトコルとしては任意の通信媒体の利用が可能であるが、本研究では具体的 な通信媒体として、小型で軽量、小電力であり、多くの種類の携帯端末に実装 されている赤外線通信を用いる。赤外線通信は指向性が高く到達距離が短いた め、隠匿性が高く、名刺交換等のプライベートな情報通信に適している。 今後は、Windows95が動作するノートPC等に実装し、本プロトコルの有効性を 確認する。
海水の密度は温度と塩分によって決まる。しかし、温度の拡散係数が塩分の 拡散係数より約100倍大きいため、温度と塩分のどちらかの成分について不 安定な成層をしていると、場が不安定となって対流の発達する場合がある。こ のような対流の発生にとって重要なのは密度を決める2つの成分の拡散係数が 異なることであるので、2重拡散(鉛直)対流と呼ばれている。特に拡散係数の 大きな温度について安定で、小さな塩分について不安定な成層をなしている とき salt finger と呼ばれる縦長の対流が生じる。 本研究では異なる2種の拡散係数(κt,κs)を持つ物質(T,S)の拡散につい て、直接数値シミュレーション(DNS)を行い、salt finger の発達の様子を数値 計算で求めた。 この計算では水平・鉛直各方向2πの周期的な2次元領域でモード数128× 128 のスペクトル法(フーリエ・ガラーキン法)を用い、時間積分には4次の ルンゲ・クッタ法を用いた。また、 salt finger の可視化はAVSを用いて行 った。その結果、特にSの濃度がキノコ状に伸びて鉛直方向に拡散していくこ とが分かった。
乱流の統計理論はおもに、統計的取り扱いの簡単な一様等方乱流について発 展してきた。しかしながら、現実の乱流現象のほとんどは非一様・非等方であ り、現実の乱流に一歩近付くためには非等方性を考慮する必要がある。非等方 性のおもな要因としては、成層、せん断、回転の3つを挙げることができる。 ここで、「成層」は鉛直方向に密度勾配があること、「せん断」及び「回転」 は平均流としてそれぞれせん断流及び回転流があることを指す。 本研究では特に「回転」に注目する。 回転乱流は、理論的には線形近似(Greenspan,1968)あるいは弱非線形近似 (Waleffe ,1991,1993)を用いた解析が為されている。また、実験的及び数値 的にも様々なグループによって様々な方法で調べられている。これらの研究の ほとんどは、取り扱いが簡単なオイラー的統計量に関しての研究である。しか しながら、乱流拡散現象に密接に関係するラグランジュ的統計量も重要である。 そこで本研究では、回転一様乱流(平均流として剛体回転流がある乱流)の 直接数値シミュレーション(DNS) を行ない、オイラー的統計量の追試及びラグ ランジュ的統計量の解析を行なったので、その結果を報告する。
現在、既にさまざまな種類の文字に対する文字認識システムが存 在している。しかし、そのような文字認識システムは、特定の言語 の文字集合に依存し、特化している。そのため、主として認識対象 とする文字集合に属さない文字に対する認識率は、格段に低下して しまうので、その文字認識システムを使用する際には、どの言語の 文字種であるかを、人が指定する必要がある。 しかし、人間が文書を見る場合、その文字集合の中の文字が、た とえただ一つも読めなかったとしても、文字集合の特定は可能であ る。 そこで、本研究では、ある文書で使われている文字列が、どの文字 集合かを特定することが目的である。さらに、この目的は文字認識 を用いることなしに達成される必要がある。 この目的を実現するために、文字集合全体の特徴を知識として持 ち、それを基に文字列を調査し、どの文字集合であるかを特定する。 また、この研究において特定対象とする文字は、活字体の文字の みとする。
有限体GF(2^m)は誤り訂正符号や暗号等で広く用いられている。従って、これ らの符号や暗号の実現において、GF(2^m)上の演算の効率化は重要な課題とな っている。そこで本発表ではGF(2^m)上の諸演算の回路実現について考察する 。GF(2^m)上の演算の効率には、体を生成するために法とする既約多項式、体 の要素の表現法、体の要素を表現するための基底等の選択が影響し、これらの 選択によって生じる演算の特性を利用した様々なアルゴリズムが提案されてい る。GF(2^m)上の要素の表現法にベクトル表現を用いると、GF(2^m)上の加減算 はベクトル表現の各成分毎の排他的論理和をとることで容易に実現される。こ れに対し乗算や除算等の演算は複雑となる。一方でGF(2^m)上の要素の表現に べき表現を用いると、GF(2^m)上の乗算や除算はそれぞれべき表現の指数の加 算と減算で実現できる。従って、ベクトル表現とべき表現の間の変換を効率良 く行うことで諸演算の効率化を図れる。この変換の効率について調べることは 、近年研究の盛んな幾つかの暗号の安全性の指標のひとつである、GF(2^m)上 の離散対数問題の困難さについて調べることに相当する。